特殊印刷調査隊「漫画の表紙」に使われている特殊加工を調査しました!

特殊印刷調査隊「漫画の表紙」に使われている特殊加工を調査しました!

世の中にある様々な印刷の特殊加工について調査する【特殊印刷調査隊】。今回はその第一弾として「漫画の表紙」について調べてみました。
自宅に眠っている漫画の中から、ちょっと変わった用紙や特殊加工、印刷方法などをご紹介していきたいと思います。

海外でも人気の「NARUTO」。表紙にグロスPPが使われています。 画像引用:Adobe Stock

表紙の加工について

毎月多くの漫画が出版され、本屋へ平積みされていきます。 画像引用:Adobe Stock

お手に取って見てもらえればわかりますが、一般的に漫画の表紙には光沢のある「グロスPP」か、あえて光沢を抑えた「マットPP」のどちらかが使われることが多いです。
また、どちらかといえば、少年少女向けの漫画には「グロスPP」が、大人向けや愛蔵版、文庫版には落ち着いた雰囲気がでる「マットPP」が使われることが多いように感じます。

表紙に特殊加工を施した漫画を紹介

それでは特殊な仕様の表紙について、一冊ずつ解説していきたいと思います。

1.「鋼の錬金術師」ホログラム箔押し

まずはアニメ化もされた「鋼の錬金術師」よりご紹介します。
「鋼の錬金術師」は錬金術が存在する架空の世界が舞台の物語。POPでノリの良いバトルマンガですが、扱っているテーマが人体の蘇生の是非だったりするせいか、後半は哲学的な要素も組み込まれ、死生観について割と考えさせられる内容となっています。

この漫画の表紙の特長は毎回タイトルの文字の色が異なるところです。全数並べると色とりどりのタイトルが並び、見ていても楽しくなってきます。
前半は原色に近い明るい色が多いのに比べ、後半物語が核心に迫ってくるとシリアスな場面も多いせいか、落ち着いたモノトーンカラーが目立つ様になっています。

そしてこの漫画の特殊加工は最終の4冊にあります。この4冊だけタイトル文字が箔押しで表現されているのです。

  • 24巻→メタリック青箔
  • 25巻→ツヤ金箔
  • 26巻→メタリック赤箔
  • 27巻→ホログラム箔

特に最終巻はホログラム箔を使用してキラキラ度もアップ! ラストバトルの盛り上がりをゴージャスに演出しています。
光の加減で輝きが変わるこのホログラムも、この作品のテーマの一つでもある生命の力強さやエネルギーを感じさせてくれます。

2.「鉄コン筋クリート」箔押し&レザック

お次はアニメ映画がアカデミー賞アニメーション部門にもノミネートされた「鉄コン筋クリート」です。クロとシロという二人の少年が自分たちの街(居場所)を守るために、利権を貪る大人たちと戦うヒーロー群像劇です。

アクションシーンが多めの作品ですが、大人向けの漫画なので表紙も凝っています。表紙に使用されている用紙は恐らくレザック66の白、ゆきのどれかではないかと思います。
レザックは手触りもよく、動物の革のようなうっすらとした模様が入っており、書籍などに用いられる上品な特殊紙です。
さらにタイトルはツヤ銀箔押しの加工を施し、表紙にアクセントとして取り入れることで、上品で落ち着いた仕上がりになっています。

暴力シーンや過激な描写も多い作品ですが、作品の中身と表面の上品さのギャップが作品に重厚感を与えて、ただのアクション漫画とは一線を画した仕上がりとなっています。

3.「宇宙兄弟」スターホログラムPP

アニメ化や実写映画化もされた大人気漫画「宇宙兄弟」です。
ご存知の方も多いかと思いますが、パッと見るとなんの変哲もない表紙ですが、よくよくみると、表面に使用しているグロスPPが全て、星型のホログラムPPで演出されているのです。

メーカーによって名称は異なりますが「スターホログラム」「スターライトホログラム」なんて呼ばれてます。本を傾けると周りの星が光の加減でキラキラと輝き出し、まるで宇宙にいるかのような演出になっています。

通常、スターホログラムを使えば、どうしても実際の絵柄が埋もれてしまうことが多く、扱いの難しい素材なのですが、宇宙という大きなテーマをリアルに扱っている宇宙兄弟だからこそ、このスターホログラムの加工も作品に彩りを添えるエッセンスになっているように感じます。                                            

4.「大長編ドラえもん」疑似エンボス加工

誰もが知っているあのドラえもんより、こちらは愛蔵版として出版された全集の中の1冊です。
拡大するとわかりますが、表紙全体に小さなツブツブのエンボスが入っています。そしてドラえもんやのび太の表面にはツブツブが無く、逆にツヤが出るような仕掛けになっています。

こちらの仕様は「擬似エンボス」と言われる加工で、ブツブツのざらっとした箇所と、目立たせたい部位には艶のあるグロス系の光沢で盛り上がりを作り出します。
※エンボスという名前は付いてますが、型を使って盛り上げる通常のエンボスとは違い、2種類のニスを使用することで凹凸の有り無しやツヤが出せるようになります。

疑似エンボスの仕組み

仕組みを解説すると長くなってしまうのでざっくりと解説します。
疑似エンボスを作り出すには2種類のニスを使用します。まずOPニスを凹凸の欲しい部分に塗布し、その上にUVニスを全体に敷くようにします。
すると下地にOPニスがある箇所は、図のようにニスが交わらず、UV照射で硬化すると凸凹の部分が仕上がるようになります。

5.「ハニバニ!」特色掛け合わせ

こちらは少女漫画「ハニバニ!」です。意中の彼が宇宙人に乗っ取られることで、自分の事を好きになってくれるっていうSFコメディ。
ドタバタな展開で最初は笑って読めるけど、だんだんとシリアスになって、最後は涙な展開に。1冊で完結するので映画を1本見るような感じで読後感もスッキリとして読みやすいです。

そして、この表紙も特殊技術が使われてます。上の写真でおわかりいただけたでしょうか? 勘の良い方なら気付くかもしれません。そう、この表紙はCMYKのうちC(シアン)とM(マゼンダ)が使われていません。

恐らくシアンの代わりにDIC42の特色ブルー、マゼンダの代わりにDIC584の蛍光ピンクが使われているのではと思います。
そして、その他のグリーンやオレンジ、パープルはそれらの色の掛け合わせで作られています。

特色の掛け合わせについて

CMYKの4色ではないでフルカラーの配色は出来ませんが、その代わり普段使えないような蛍光ピンクやブルー、さらに掛け合わせることで蛍光オレンジやグリーンなど、鮮やかな色彩の特色を散りばめることができます。

色彩のセンスが問われるデザインになりそうですが、通常のCMYK印刷にはない、カラフルでPOPなデザインに仕上がっています。

6.「死刑執行中 脱獄進行中」銀色メタリック表現掛け合わせ

「ジョジョの奇妙な冒険」でおなじみの荒木飛呂彦先生による短編集です。荒木ワールド全開のミステリー&ホラーが楽しめる作品集となっています。

そしてこちらの表紙もこだわりを感じさせる仕様になっています。一見すると通常の単行本と変わらない印刷に見えますが、よーく見てみると全体のパープル部分がメタリックになっているのがわかると思います。

これはCMYKフルカラー印刷の下地に、銀色の特色インクを先刷りすることで可能となるテクニックです。
銀先刷りにより、背景のパープルが鮮やかなパール調で表現され、作品中に彩られた華美な色彩を一層引き立たせる表紙になっています。ジョジョを知らない人も思わず手にとって見てしまうくらいカッコ良い仕上がりです。

銀インク先刷りの仕組み

なお「銀先刷り」についてはグループ会社が運営している「デザイナーのための研究所_013.CMYK+銀インキ」で詳しい解説をしているので、興味のある方は是非こちらもご確認ください。

7.「聖☆おにいさん」表紙 キュリアスメタル

キリストとブッダが東京・立川でアパートをシェアしながら、下界をバカンスするというギャグ・コメディ作品。神様なのに…ってツッコミどころが満載の作品です。

この作品は漫画の表紙としては珍しい「キュリアスメタル」といわれる光沢用紙を使用しています。全面に細かいパールの粒子が入ったかのようなキラキラとした素材で、キリストとブッダの神々しさみたいなものを、コミカルに演出しています。

8.「雪の虎」UV厚盛ニス

戦国の世界で毘沙門天の化身ともいわれた軍神は実は女性だった…という奇想天外なストーリー。でも単純なパラレルストーリーとしてではなく、ちゃんと史実に基づき、確かに謙信が女性だったらこうゆう行動にでるかも…みたいな新しい視点で描かれた歴史マンガです。

表紙全体にこのサイズの単行本として珍しい「マットPP」の加工が施され、歴史漫画としての格式をもたせた上品な仕様となっています。
そしてタイトルの「雪花の虎」の部分にはUV厚盛ニスが加工され、グロスの光沢が全体のマット感の中にひときわ目立つデザインとなっています。

さらにタイトル文字のマゼンダから黒のグラデーションが鮮やかに浮き立つことで、主人公の意思の強さや、女性ならではの華やかさを演出しているようにも感じます。

9.「僕の小規模な生活」ファンシーペーパー+3色印刷

この作品は駆け出し漫画家の「僕」の毎日を綴ったこじんまりとした自伝的エッセイ漫画です。
仕事が決まるまでのアルバイト生活のことや、仕事の悩み、編集者との打ち合わせ等など、自分の内に秘めた悶々とした感情を、赤裸々に面白おかしく語ってくれるので思わず共感してしまう作品です。

この作品は全6巻刊行されてますが、上の写真を見てわかるように、全ての表紙の仕様が異なっており、かなりこだわりを感じさせます。そこで分かる範囲で表紙に使用している用紙を調べてみました。

1巻
用紙:ファーストヴィンテージ_シルバー
刷色:黒+白+緑_3色

2巻
用紙:フィオーレグロス
刷色:黒+オレンジ_2色

3巻
用紙:ギンガムGA スノーホワイト
刷色:CMYK+ピンク_5色

4巻
用紙:ファーストヴィンテージ_オーク
刷色:黒+白+青_3色

5巻
用紙:五感紙_荒目_さび
刷色:黒+白+黄緑_3色

6巻
用紙:五感紙_荒目_おうど色
刷色:黒+白+蛍光ピンク_3色

用紙の見本帖と比較して恐らくこれかなというのをチョイスしてみました。
もし用紙に間違いがあるようでしたら、お知らせくださいませ。

基本的に3巻以外は黒+白に+アクセントカラーの3色のデザインです。
用紙の地色を活かしたシンプルな配色ですが、あえてのチープ感はこの作者のネガティブだけど、何か共感できるモヤっとした感情を表現しているようで、とても作品にあっているように感じます。そして用紙を刊行されるごとに変更するなど、造り手のユーモアも感じさせてくれる作品です。

まとめ

いかがでしょうか? 今回は身近のマンガ本の中で特殊印刷や加工がされているものをピックアップして紹介いたしました。

私は職業柄、こういった特殊な仕様のマンガ本を見ると、思わず手がのびてしまいます(笑)
コストのことや、加工現場の人やデザイナー、編集者など、作り手の皆さんがどんな思いで作ったのか?この加工をしなければならない「こだわり」がきっとストーリーの中にあるのかな?とか色々考えてしまうのです。

もう職業病かもしれませんが、そういった考えを持ちながら漫画を読むと、また違った楽しみ方ができます。

近年は電子書籍が広まり、漫画もスマホなどで気楽に見られるようになりました。でも装丁にかけた作り手の思いはやはり実際の単行本でないと伝わりづらいです。是非みなさんも本屋に行く際は、単行本の表紙の仕様にも目を向けてみてください。色々発見することがあって面白いですよ。

今回は以上です。グラビティでも特殊加工の商品も承っております。こんな事できるかな?と思いついたアイデアを是非お問い合わせください。
いっしょに形にしていきましょう!

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